Quantcast
Channel: 東風戦メンバー戦記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 56

101「言い訳」

$
0
0

インターネット麻雀が世に現れて久しい。近頃は、牌を握ったことすらない打ち手も強者として名を馳せる時代だ。
上家の若者は、ネットの麻雀で経験を積んで、武者修行に来たと話していた。
どうしてどうして、牌捌きも見事なもので、摸打の速さも目を見張った。
しかし、ネットの麻雀と実際の麻雀では違う部分がいくつもある。
祝儀やレートに日和ったり、雰囲気に呑まれたり、場慣れしていない者が力を発揮できるかどうかは難しいところであろう。
まあ負けても言い訳は立つさ、と先達の思いで若者を見守っていた。

ある局の始め、ドラは※東であった。
親の若者はそれまでと変わらぬモーションで、前の者が切るやすぐに手を伸ばして、すっ、すっと牌を引き寄せる。
皆がそれに釣られるように、先ヅモに近い様子で手を伸ばしていた。
それを見て私は3巡目、手牌に邪魔だったドラの※東をつまんだ。
三者の所作を注視していれば、誰もが鳴く素振りがないのはすぐに分かる。
実際の麻雀にはこういう経験の差もあるさ、と手牌もまとまらぬうちから、悠々の心持ちで※東を投げたのである。
「ポン!」
若者が、驚いた様子で声をあげる。
驚いたのはこっちもだ。親にドラのダブ※東を鳴かせ、他の二人があからさまに眉をひそめた。違う、違うんだ。
若者が、今重なったんです、と申し訳なさそうに頭を掻いた。
彼は終盤、赤1枚つきの6000オールを引き和了る。
私は余計な情報を持ち込んだ自分勝手な言い訳を、ぐっと噛み殺すしかなかった。
ネットからの刺客に翻弄されながら、私はそれでも先刻の汚名を返上するべく反撃の機会を伺っていた。

ある局、仕掛けていたのは対面で、下家から※六をポンしていた。私は
三三三四五④⑥⑧22445

こんな形だったのだが、ぐいっとポンカスの※六を持って来てほくそ笑んだ。
と、その瞬間、上家の若者が切った※中を、対面がやや遅れた様子でポンと言う。
■■■■■■■ 中中中(ポン) 六六六(ポン)

私の※六は食い上がり、若者の手の内に入った。
薄い※三‐※六を取られちまったな、と若者の切りを無遠慮に恨んだ。
私は攻撃の一手を逸し、そして数巡後、若者からリーチがかかった。
北白18⑨一中九八東(リーチ)

私は一発目に安牌がない。
三三三四五④⑥⑧22445 ツモ④

そのときふと、先ほど食い上がったポンカスの※六のことを思い出した。
※三‐※六は、若者の手に面子で入っている。
ならばここは、※三を落とせるんじゃないか。場には※二が4枚見えており、ペン※三の可能性もなかった。※三‐※六は、入っているんだ。
――また、若者が驚いた様子で声を上げた。
「ロン!」
四四五赤五六①①456789

※六は無いんですけどね、とやはり若者が頭を掻いた。
ネットと実際の麻雀は違う、だって?現実でしか分かりえない情報に振り回されて、失着を繰り返したのは浅はかな自分なのであった。
私は、負けても言い訳は立つさ、と若者に独りよがりの老婆心を持ったことを心から恥じた。
負けた言い訳を現実の麻雀に求めたのは、ここにいる、他ならぬ思い上がった先達だったのである。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 56

Trending Articles