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Channel: 東風戦メンバー戦記
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お知らせ。

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2008年7月12日(土)
深夜26時~28時半
毎日放送ラジオ(1179khz)

土曜深夜放送の、大阪のラジオ番組「ゴー傑P」にゲスト出演することになりました。



関西にお住まいの方は、是非お聴き下さい。


単行本2巻。

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おかげさまで来たる10月4日

漫画版「東大を出たけれど」第2巻が発売されることになりました。




第1巻の発売のときの記事はこちら です。


あれから1年ですか・・


当時はまだ2巻なんて夢みたいな話で、

「1巻」の表記すら装丁にありませんでしたね(^-^)


漫画家である井田ヒロトさん、担当の編集さん、

そして何よりも応援してくださった近代麻雀の読者のみなさんのおかげで、

こうして続きを提供することができました。


一人でも多くの麻雀ファンの方に読んで欲しい作品です。


どうぞよろしくお願いいたします。

鶯谷チョンボ。

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麻雀業界きっての美人プロ雀士4人が、音楽業界初の“ 麻雀アイドル”としてデビュー!
11/5発売「鶯谷チョンボ」です。




順に、

上田唯  桜庭史恵

成瀬朱美  手塚紗掬

桜庭さんは最高位戦でいらっしゃいますからほとんどお話したこともないのですが・・

上田さんと成瀬さんは協会ですので、よく知っています。

手塚さんは私が協会のプロ試験を受けたときにご一緒しました。

同期なんですよね。

まさかCDデビューするなんてびっくりですよね。

私は以前から、麻雀プロというものは麻雀が打てるだけでは足りないと思っています。

文章を書けたり、漫画が描けたり、HP作成スキルがあったり、

何かしら「麻雀の面白さを伝える能力」「自分を表現する能力」がないと、

存在に意味がありません。


彼女たちのようにキレイな女子プロがこういう活動をすることは、

業界を広く認知させること、

麻雀のイメージアップにとても有益だと思います。


作詞は秋元康さんだそうです。

[PV] 鶯谷チョンボ - 雀(すずめ) / Uguisu-dani chonbo - Suzume

雀立つ門。

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このたびオンライン麻雀サイト「Maru-Jan 」さんの方で、

コラムを書かせていただくことになりました。→雀立つ門


また、東風戦メインでMaru-Janに参加させていただいています。


同卓の際はみなさんよろしくお願いいたします。

第19回最強戦。

協会ファンクラブ発足。

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東風戦メンバー戦記-ueda


このたび、日本プロ麻雀協会ではファンクラブを設立しました。

ファンクラブ名はClub.NPMです。

ファンクラブ会員特典として
・交流イベント(関東・関西の年2回)の優先参加・割引
・会報の発行
・毎週女流プロからのメール配信
・直筆バースデーカードのプレゼント
など、さまざまな企画を続々発信していきます。
また、男性プロのここでしか読めない書き下ろしの戦術論やコラムも会報に掲載します!
詳しくはhttp://clubnpm.com/ をご覧ください!
皆さんよろしくお願いします。


カンチャン待ち麻雀人生相談。

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初心者のための麻雀講座
黄金牌を巡る物語

http://www2.odn.ne.jp/~cbm15900/



こちらで福地誠さんの担当されている

カンチャン待ち麻雀人生相談 というページに質問を提供させて頂きました。


福地誠さんは私が昔いた雀荘の客で・・・

東大の先輩でもあり、その店のメンバーの先輩でもありました。


第18夜「親方と福地誠」 でも登場していますね。


福地誠blog


福地さんなくしては今の私はありません。

尊敬する先輩です。

ごあいさつ。

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東風戦メンバー戦記

今日は竹書房で
「東大を出たけれど」3巻
の全体校正をして来ました。

6月5日に発売いたします。

一応6月1日の近代麻雀本誌に単行本の最終話を掲載いたしまして

漫画「東大を出たけれど」はおしまいです。

初めての漫画原作でしたが、こうして3巻まで出させてもらえたのは、
ひとえに読者の皆様、作画の井田ヒロトさん、担当の編集さんのおかげです。

この場を借りて御礼申し上げます。

正直もっと続けられたらそうしたかったのですが、
なかなかうまくいかないものですね・・・

ともあれ、一つの仕事を終えたということで。

これを区切りに、また頑張っていこうと思います。

最後になりましたが、
amebloの皆様、メンバーの仕事や雀荘でのドラマに興味をお持ちでしたら、
単行本の方、お手に取ってご覧いただけたら嬉しいです。
読んだことのある方もそうでない方も、
どうぞよろしくお願いします。


東大を出たけれど3巻。

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というわけで本日発売いたしました。

東大を出たけれど3巻です。

掲載されているお話について簡単に紹介を・・・


「フリテンの店」
今働いている雀荘の近所の飲食店のお話ですね。
私の心配をよそに、現在も元気に営業しております(^-^)


「海底」
知人のメンバー時代の経験をお話にしました。
感謝。


「対処の打牌」
雀荘に長くいる人は、こういう方は何人も見てきたのではないでしょうか。


「アルカイックスマイル」
モデルは知人です。
彼女の体験と日記が元になっています。


「不器用な子」
名前は三木プロのをそのまま拝借しました。
本当に弟から心配して電話がかかってきたそうです。


「出前持ち」
このモデルの方は、事実過労で亡くなってしまいました・・・。
流石に後日談としては悲しすぎるので漫画にはしませんでした。
ご冥福をお祈りいたします。


「会話」
大学時代の麻雀仲間の話です。
類は友をと申しますが、
実際私の周りにはこんな連中ばかりでしたね。


「黙テン」
これが事実上の最終回です。
2巻の最後は敢えて強烈に暗い話で締めたのですが、
3巻は、恋愛を絡めて、読後感はもう少ししんみりとさせようと思いました。


という感じになっています。

まあムダヅモのように爆発的に売れたら再開もあるかもしれませんが、
おそらく厳しいでしょうね・・・

それでも、私の拙いお話にここまでお付き合い頂いた読者の方々には
心から感謝しております。


本当にありがとうございました。


雀荘メンバーの悲哀や葛藤について、
少しでも皆様の共感を得られたら幸いです。

それでは皆様、またどこかでお会いできることを祈っております。

いろいろ告知です。

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ご無沙汰しております。

漫画「東大を出たけれど」ですが、
コンビニ廉価版が発売されることになりました!

12月10日(金)「麻雀メンバー戦記」で販売します。

まだご覧になってない方、
また、帰りの電車でちょっと時間つぶしをしたい方、
是非コンビニで手に取ってみて下さい。


それともう一つ、
1月27日(木)Vシネマ版「東大を出たけれど」が発売されます。


全国2万件の雀荘に“メンバー”と呼ばれる者たちがいる。彼らは雑務と接客をこなしながら自腹で麻雀
を打つ、雀荘従業員である。東大を卒業してメンバーになった須田良規(岡部 尚)。
日本の最高学府を卒業したのだからもう少し気の利いた職業があったかもしれない。だが良規は自らが住むべき場所を雀荘の中に見出した。
雀荘には、学生時代の友人である奥村恵(折原みか)、八波泰介(工藤和馬)、瀬川透(島守杏介)や良規行きつけのラーメン店従業員の山ちゃん(宮川一朗太)が、さまざまな思いを抱きながら訪れる。
そこには社会的地位や名誉、資産の有無も存在しない。皆、公平に与えられたチャンスを掴むべく闘うことだけに集中する。
そして、その間は忘れることができる。日々の辛苦を、将来の不安や、焦燥を・・・。
明日になれば再び日常に戻っていく市井の麻雀客たちを、良規は静かに見つめている。

$東風戦メンバー戦記-dvd


・・・というわけで、こちらも是非ご覧下さい!

幻の4巻第1話。

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特に思うところがあったわけでもないのですが、久しぶりに更新します。
昔漫画の「東大を出たけれど」をやっていたとき、突然の打ち切りになってしまったので、
当時書いていたもう一つの原作があります。
世に出ることのなかった原作をこのままPCに埋もれさせてしまうのも忍びないので、
こちらにアップします。
井田さんもネームに起こしてたかもしれないので、もったいないよね。
文章中の※は、牌画にすることを表しています。
ちなみにこの作品の後半の牌姿は、現在脚本をしている「病葉流れて」の第1話に流用しています。
前半の牌姿は、ある最高位戦の知人が、今はなきジパングで打った実践譜から拝借しています。

それではどうぞ~



4-1「営業マン」

営業「だめですかね――」
ソファに掛け、パンフレットを開いて懇願する営業マン。
痩躯で、細く鋭い目をしている。
向かいのソファには、倉橋と太った気難しそうな中年の男性が座っている。
男性は眉をしかめて考え込んでいる様子。

中林「須田さん――」
中林「あの、倉橋さんの隣の人、誰っすか」
カウンターで中林が小声で尋ねる。
須田「ああ――。中林は見たことなかったか」
須田「あの人がうちの店のオーナーだよ」
中林「え?マジで?」
須田「まあ半年に1回くらいしか顔は出さないからなあ――」

N(雀荘にもよるが、オーナーが店に常駐している所もあれば、うちのように滅多に店に来ないで、従業員に任せっきりの所もある)

オーナー「倉橋くんから連絡もらって、たまたま近くにいたから寄ったけれど――」
オーナーがパンフレットをポンとテーブルに置く。
オーナー「やっぱり高いよ」
パンフレットの商品は、電飾の立て看板である。
営業「あ、でも一応リースやレンタルも可能なんですが・・・」
オーナー「うーん・・・。でもこんな何十万もするとはねえ」

N(彼が売り込みに来たのは、スタンド型の電飾看板だ)
N(雀荘には、こういった類の営業はしょっちゅう来る。しかし、こんな高い代物を、小さな雀荘がポンと買えるものでもない)

営業「やっぱりだめですかね・・・」
オーナーが首を振る。
オーナー「まあ新しい看板欲しいとは言ってあったんだけどね」
オーナーが倉橋の方を見る。
倉橋「じゃあ悪いけど、今回は――」

N(営業というのも、辛い仕事だろう)
N(こうしてあちこちに出向いて、頭を下げて、同じ商品の説明を繰り返して――)
N(それが報われることすら滅多にないのである)
営業マンの足元のアップ。くたびれた革靴を須田が見ている。

倉橋「今日はオーナー、打っていきます?」
オーナー「ああ――そうだな。たまには打とう」
営業「――あ!じゃあ・・・」
営業「私も打っていいですか」
オーナーと倉橋が顔を見合わせる。

麻雀を打っているシーン。
面子はオーナー、倉橋、営業マン、スーツ姿の年配男性(注:あとで分かりますが不動産屋の社長ということで)。

並びは、

  倉橋
社長  オーナー
  営業



営業マンが麻雀を打っている。
細い目を開き、背筋を伸ばして摸打をしている。
須田がそれを見ている。

N(一目で分かる――)
須田(打てるクチだな・・・)

N(彼自身、オーナーと一緒に麻雀を打って心証を良くしようという算段もあったのかもしれない)
N(しかし、その牌を持つ所作と背筋の張った姿勢は、間違いなく麻雀好きのそれだ)

数局進んでオーラス。
須田(オーラス・・・親の営業マンは5800条件か)

<営業の手>
三四②③③④⑤⑥⑦⑧赤566 ドラ6


須田(※二‐※五、※①‐※④の平和イーシャンテン・・・)
須田(※④からなら仕掛けて5800の聴牌を取れるんだが)
 
そこへ上家の社長が⑥を切る。
営業「チー」
間髪入れず、営業が⑦⑧を晒し、打②とする。
三四③③④⑤⑥赤566 ⑥⑦⑧(チー) ドラ6

須田が感嘆の表情。
須田(なるほどこの形なら――、どこからでも仕掛けて条件を満たす聴牌が組める)

上家の社長が打7。
営業「チー」
営業が鳴いて打6。

オーナーが二を切る。
営業「ロン」
三四③③④⑤⑥ 7赤56(チー)⑥⑦⑧(チー) ロン二

営業「5800の1枚です――」
オーナー「あーやっちまったー」
オーナーが悔しそうな表情を見せる。

N(その営業マンの打ち筋は、間違いなく過去に麻雀に狂った時期があることを匂わせた)
N(多分に漏れず堅気の職に落ち着かざるを得なくなったのは――、やはり月並みな理由があるのだろう)

営業マンの左手薬指に指輪が光る。
須田がそれを見ている。

何度か営業マンが和了り、社長とオーナーは共に負けが込んでいる様子。

そこへまず下家のオーナーが意気込んでリーチ。
続いて上家の社長もリーチ。

それを受けて営業の手は、
④④⑤⑥⑦⑦⑧⑧⑧5667 ドラ⑧
ここにツモ⑦。


<上家の社長の河>
東北発21③
5①一(リーチ)

<下家のオーナーの河>
南⑨九白8中
八2(リーチ)


須田(聴牌取りは※④切りか※6切りだが――、共に真ん中の超危険牌)
須田(しかもどちらかが通ったところで、それが最終形ではないにせよ、極端な愚形には違いない)

④④⑤⑥⑦⑦⑧⑧⑧5667 ツモ⑦

須田(どうする――?)
営業マン、打⑧。

須田(ノーチャンスのドラ切り、か)
ドラ表示牌の⑦の画。

④④⑤⑥⑦⑦⑦⑧⑧5667

N(これなら※④と※6のくっつきで聴牌が組める。和了れそうもない聴牌で勝負するくらいなら、こう受けた方がよっぽど戦えるはずだ。

須田(後は――。押し出される牌が通るかどうかだが――)

次巡、営業マンはツモ4と来て、打※④でリーチ。

社長「ロン!」

<社長の手>
一二三四五六七八九赤⑤⑥99

社長は和了れて歓喜の表情。
オーナーが悔しそうに手を開ける。
オーナー「うーん・・・これもダメか~」

<オーナーの手>
四赤五六①②③④⑤⑥1145

須田(営業の人、詰んでたか)
N(営業マンは、※④に筒子がくっついても、※6でオーナーに放銃である)  

N(結果だけ見れば詰みの手牌であったが、聴牌取らずで勝敗を次の牌に委ねたのは面白かった)

その卓がお開きになり、4人が席を立つ。
負けたオーナーは不機嫌そう。
営業マンは、やや気まずい面持ちである。

オーナー「じゃあ帰るかなー」
N(牌の悪戯が、勝者を選ぶことだってある)

N(彼に多少は手心を加える意志があれば――)
N(オーナーもちょっとは考え直してくれたかもしれないが)

須田(麻雀が好きなら、そんなことはできないか)
N(――と、社会を渡るには不器用な同類を眺めた)

N(麻雀が好きだからこそ――、)
N(自然な牌の巡りに運命を任せたいのだろう)

そこで社長が、立ち上がった営業マンに声を掛けた。
社長「君、看板の売り込みなんだってな。私はそこで不動産屋をやってるんだが――」
社長「私も看板をどこかに頼もうと思っててね。ちょっと名刺もらえるかな――」

営業マンが明るい表情になる。
須田も微笑む。
N(牌の悪戯が――、思わぬ拾う神を得た)

営業マンの携帯が鳴る。
慌てて席を離れる営業マン。
営業「す、すいません」

隅で小声で電話に出る。
電話「――どう?ちゃんと仕事してるー?」
営業「なんだよ・・・仕事中に掛けてくるなって」
受話器を手で覆いながら営業マンが話している。
電話「えー。てっぺーくんのことだから、仕事中に麻雀しちゃってるんじゃないかと思って(クスクス)」
営業「やば・・・なんで分かるんだよ」
営業「あ、でもな、麻雀やって、なんか仕事取れるかも」
電話「えー?何それ。接待?」
携帯を持つ左手の指輪が光る。
目を閉じて、微笑んでいる営業マン。

ついでに第3巻最終話原作。

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また暇が出来たのでついでに。
これは第3巻の最終話ですね。実質の最終回。

もし漫画の単行本をまだご覧になってない方がいらっしゃれば、興味を持って頂けたら幸いです。

実際の漫画の方は、ネームが足りなかったのか作画の井田さんが脚色を加えて下さってます。
井田さんはこういうのも巧いんですよね~。

ところで今近代麻雀の方で、近代麻雀漫画賞を募集していますね。

近代麻雀漫画生活さまより勝手に拝借→http://blog.livedoor.jp/inoken_the_world/archives/51940351.html

原作部門とか考えている方は、参考になさって下さるといいんじゃないでしょうか。
(別に竹書房に頼まれたわけじゃないですよw)

それではどうぞ~


3-8「黙聴」


(注:今回趣向を変えて・・・中林がストーリーテラーとなって、須田を見ている形にして下さい)


フロアーで立ち番をしている須田と、麻雀を打っている中林。
カランカランと扉が鳴って、カップルの客が来店する。
男性は派手なコートの偉そうな若者、女性の方はそれに似つかわしくない、とても清楚な印象である。
須田「いらっしゃいませ――」
須田はその女性が来て、いくらか嬉しそうな表情で迎える。
卓の中林がそれを見る。
N(・・・見てらんねーな)

ソファに掛ける二人。
須田がおしぼりを二つ持ってくる。
N(ちょっと前、こうやってカップルで来る客がいて――)
N(まあなんつーか・・・)
N(多分先輩は、わりと彼女のことが好きだったんじゃないかと思ってた)
麻雀を打ちながら中林が、おしぼりを彼女に渡す須田の顔を見ている。

彼氏「アイスティーあったっけ?」
須田「すいません、アイスティーはなくて――」
彼氏「なんだよ――。うちの近くの店はあるのにな」
彼氏「いいやコーラで」
彼氏はつまらなそうに話す。
彼氏「わざわざこんな店まで来なくてもよくね?」
彼女「いいじゃん。私、ここがいいな」
彼女が須田の方に目をやり、無言で目を伏せる須田。
ちょっとトイレ、と彼氏が待ち席を立つ。
彼女が須田に話しかける。
彼女「ごめんね――。無理に起こして来たから機嫌悪いみたい」
須田「いえ――」
彼女「今日は須田さん一緒に打てる?」
須田「そうですね――。メンバーツー入りで立てますから」
彼女「ふふ。よかったぁー」

N(もちろんこれは俺の勝手な想像に過ぎないけど――)
N(彼女の方も、なんとなく須田さんに好感を持っていたんじゃないだろうか――、という感じはしていた)
N(もっとも、彼女はいつも彼氏連れだったし)
トイレから出てきた彼氏と彼女が話している画。
N(俺たちメンバー風情が、雀荘の客に何を期待するってわけでもないけどさ――)


彼女「――ツモ」
<彼女の手>
一二三五五六七七七八九九九 ツモ六
彼女「4000・8000――」
カウンターに立って、麻雀を見ている中林。
N(麻雀は、彼女の方が好きでやっているんだろう)
N(彼氏の方は、どちらかというと渋々付き合っている様子だ)

須田「ロン!」
須田「ツモ!」
カウンターで頬杖をついて見ている中林。
N(最初彼女がダントツだったけど――、須田さんが必死に追い上げた)
N(なんていうのか――)
N(彼氏に張り合ってとか、彼女にいいトコを見せたいとか、そういう子供じみた意地を見せるような人じゃなかったけど)
N(須田さんはただ静かに――、トップの彼女を追いかけていたんだ)


N(オーラス――)

   東家(男性)
南家(倉橋)  北家(女性)
   西家(須田)


N(北家の彼女は35200点持ちでトップ目)
N(西家の須田さんは35000点と、その差は200点)
中林(共に和了りトップ――)

王牌の画。ドラ表示牌は南。

<彼女の手>
■■■■ 四三五(チー) ⑦赤⑤⑥(チー) 発発発(ポン)

<彼女の河>
九白②東8⑨
八西③4

N(ドラは※西で出枯れ。赤※5は場に見えており――)
倉橋の河に赤5索の画。

中林(彼女はまず※発赤1枚の2000点といったところか)


須田、ツモ八。
<須田の手>
三三六七①②③45789北 ツモ八

中林(須田さんも聴牌――)
須田、打北で黙聴。

<須田の手>
三三六七八①②③45789

中林(オーラスの和了りトップだ。当然のダマ――)

親の彼氏が※6を切ってリーチ。
彼氏「リーチ!」

中林(出た――!)
須田「ロン!」

N(そのとき――、透き通るような声がそれに被さった)

彼女「ロン――」
①①45 四三五(チー) ⑦赤⑤⑥(チー) 発発発(ポン) ロン6


須田「あ――」
須田が唖然とした表情。
須田「・・・1000点です」
彼女「私は2000点――」

中林(確かに、彼女は予想通りの2000点か――)
N(彼女が2000点のダブロンで――、彼女は須田さんが必死に伸ばした手をすり抜けるように、すっと逃げのびてトップになった)

N(そうだ。彼女の待ちも、仕掛けと河から索子の中ほどが濃い)
彼女の河の画。
N(※3‐※6あたりの2000点、といった予想は容易に立つ)
N(それなら――、同聴だったときに備えて、須田さんはダマにせず曲げておいた方が良かったんだ)

散乱する牌の中、凛として立つ王牌の画。
須田がそれを注視している。
中林(裏ドラは――なんだったのかな)

須田の倒した手牌のアップ。
三三六七八①②③45789

N(メンピンだけでは無論2000点で結局足りないが、裏ドラが乗れば当然彼女はかわせる。上家だからリーチ棒も失わない)

うなだれている須田に、彼女が悪戯っぽく微笑む。
「リーチ、すればよかったのに」

須田が彼女の顔を見る。
N(これも無粋な俺の想像だが――)
N(もしかすると、どこかで須田さんが、堂々と思いの丈を告白すれば――、何か運命は変わったのかもしれない)
N(堂々とリーチをすれば、転がった裏ドラが違う未来を示してくれたのかもしれない)
王牌の画。

彼氏と彼女が上着を着て帰ろうとする。彼女は彼と腕を組んで、後ろを振り返って須田を見る。
N(結局先輩が、彼女に思いを吐露するリーチを宣言するようなことはなかった)

N(彼女の気持ちは、今となっては誰も確かめようがない)
N(伏せられた裏ドラのごとく、俺たちには知る権利もなかったんだ――)

カランカランとドアが閉じる。
二人「ありがとうございました――」

ついでにボツ原稿。

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これはまあボツ原稿。

隅々までは推敲してないので、
かなり適当な段階のままです。

手直ししていつか漫画にしようかと思ってましたが・・・、それも叶わず。

結局前半の牌姿は、他の話で使ってしまいました。
後半の牌姿もちょっと漫画には面白さが足りないかなーと。

女の子の名前は朝倉ゆかりプロに借りてますが、無論本人とは関係ありません。
人の名前も考えるの難しいんですよね~。




「差し馬」

夜中冬空の下、須田が一人寒さに肩をすくめながら店に向かっている。(道路の左側)
ふと前方に、車の助手席から降りる若い女性の姿を確認する。
運転席には、中年の身なりのしっかりした男性が座っているのが後方から覗き見える。

車が前方に去り、その女性が須田に気付く。
ゆかり「久しぶりー」
N(以前店で働いていた同僚のゆかりだ)
須田「よう」
須田「古巣に遊びに来たのか」
(運転席の男性の姿を回想させるコマ)
須田は先刻の男性に気付かなかった振りをして、固い表情で笑う。
ゆかり「うん。たまには打ちたくってねえ」
ゆかりが屈託なく笑う。

店内。
ゆかりは麻雀を打っている。
同卓の客たちが、久しぶりだねー、などと声を掛けている。

須田はカウンターに背を傾けながら、タバコを吹かしてゆかりを見ている。
ゆかりが須田の方を見て微笑み、須田は照れて目を伏せる。

ゆかり「ポン――」
二二三五七八八八②③④ 中中中(ポン)

須田(和了りトップか――)
須田(※四も※六も場に2枚――。どちらに受ける?)

ゆかり、打五。
二二三七八八八②③④ 中中中(ポン)
須田(ふーん・・・)

ゆかりの上家が一を切る。
ゆかり「チー!」
打ニ。
すぐに九が脇から出て、ゆかりが手牌を倒す。
ゆかり「ロン――」

須田(器用なものだな――)
車から降りるゆかりの姿を、須田が回想する。

ゆかりの携帯が鳴る。
慌てた様子のゆかり。
ゆかり「ごめん、代走――!」
携帯を持って、急いで店の外にでる。
メンバーの一人が代走に入り、須田はゆかりの出て行った扉の方を見ている。

少しして、須田が扉を開けて外に出る。

須田「ゆかりー」
須田「そろそろ戻って――」
エレベーター脇でしゃがみこんで泣きながら電話しているゆかりに気付く。
ゆかり「――じゃあ今夜はいいよ・・」
ゆかりが電話を切る。

須田がタバコに火をつけて、煙を吐く。
須田「――さっきのヒト?」
ゆかり「――へへ。見てたんだ」
ゆかりが涙目で、笑う。
須田「うまくいってないの?――」
無言のゆかり。
須田「彼氏ってそう若くもないみたいだけど。もしかして、不倫?」
ゆかり「――うん」
須田「・・・で?彼は離婚する気があるの?」
ゆかり「子供が成人するまで待って、って」

N「そんな与太話を信じるほど、純朴な少女でもないだろう。」
N「他人の情話に介入する気は毛頭ないが、そういう男性がいて、それを甘受する女性がいるのも世の常だ。唾棄すべきは、男の嘘だけではない」

須田「なあ――」
ゆかり「え?」

須田「次俺が本走入るからさ――差し馬をしよう」
須田「俺が勝ったら――別れなよ」
N(半ば、冗談のつもりだった――)
ゆかりは少し驚いた表情をする。
ゆかり「いいよ」
笑うゆかり。
須田も驚いて、ゆかりを見つめ返して笑う。
N(本当は彼女も――そんな冗談めいたことに運命を任せてみたかったのかもしれない)

N(下らないことだ――)
須田とゆかりが対面同士で同卓している。
ゆかり「ツモ!」
ゆかり「ロン!」
N(彼女の本心は量りかねたが――)
N(彼女は自然に、和了りに向かっていた。)

須田(オーラス、ゆかりまで7600点差の2着――)
<須田手牌>
七八⑥⑦⑧⑧789中中発発 ドラ9

脇が発を切る。
須田(――2枚目・・・)
須田が叩いて、打⑥。
N(もう打※⑧で2着取りの聴牌を組むべきかとも思ったが――、※⑨のチーの満貫の可能性を残した)
N(ウマのことも彼女のことも、特に意識したわけではないが、そのときはそうしたかったのだ。――運命を、揺蕩わせたかったというか)

直後に脇が中を無造作に打つ。
須田はやや逡巡して、ポン。
七八⑧⑧789 中中中(ポン)発発発(ポン)

上家が九を切る。
須田は黙殺して、ツモ切り。
ゆかりの切り番。
少考したゆかりが手出しで九を放つ。
須田「――ロン」
ゆかりが少し驚いた表情を見せて、それから無言で点棒を渡す。

N(その日彼に電話をして、彼女は別れを告げたらしい)
N(そして3日後に、またよりを戻した、と申し訳なさそうに彼女が話した)
N(所詮、遊びの差し馬だったのは、お互い分かっていたはずだ)
N(どうということも、ないのだが――)

今日も今日とて。

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暇なもので、なんかそろそろ昔のコラムでもアップしていこうかと思います。

以前50話くらいまでブログに出してたんですけどね、
牌画が見れなくなっちゃったんですね。

http://www.mahjong.or.jp/etc/1414.html
こちらに
「過去の牌画につきましては現状は対応しておりませんが、今後表示されるように調整させていただきます。」
と書いてあったので、それを待ってたんですが、
どうも過去の牌画はもう表示されないみたいです。(麻雀王国談)

まあ新しい牌画に変えるのもぶっちゃけ面倒なので、
これからは保存してあるテキストをそのままあげちゃいます。

全部で108話あるんですが、最後の方から出してみます。

暇があれば続きますw

108「ラス半コール」

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「近くまで来たもので――」

会社員のKさんが店に顔を出したのは、2、3年振りではなかったろうか。
元気だったかぁ、と常連たちが暖かく迎える。口数も少なく大人しいKさんだが、懐かしい顔ぶれに思わず表情が緩んだ。
昔は、会社帰りに週に何度も足を運んでくれていた。常連たちに引きずられてラス半コールを言えぬまま、徹夜で出社することも多かった。無論それは本人が断りにくい性格のせいでもあるのだが、やはり麻雀好きのKさん自身も、なかなか卓から抜けたくなかったのだと思う。

久し振りの対戦に、私は心が躍った。しばらく会えなかった客が、こうして元気でいてくれたことは、どこか嬉しいものだ。
私たちは時間を忘れて牌戯に没頭し、いつの間にか時計は22時を回っていた。Kさんはブランクのためか振るわず、結構負けが込んでいた。そして一旦清算が終了し、次の半荘の始まる前にKさんが壁の時計に目をやった。そろそろ、ラス半といったところだろうか。

「終わりにするかな。いや――、トップだったら続行しようか」

そのとき私は初めて気がついた。Kさんの左手には、真新しい指輪が輝いていた。
そうか――。Kさんは、結婚を機に住処を変えて、店に来れなくなったのだ。

何というか、私たちのようにあまり麻雀を博打の道具としては見ていない、ただの麻雀狂いは、ラス半コールというものを言いたがらない。牌に触れていれば、それで満足なのである。
Kさんの気持ちはよく分かる。麻雀で勝つということは、それだけ長く卓に座っていられるということに過ぎないのだ。
私は、少しだけKさんのことを心配した。いや正確に言えば、Kさんの帰りを待っているであろう新しい家族のことが気にかかった。
もちろん独り身の会社員なら、たまに羽目を外して徹夜で打つことがあったっていいだろう。しかし、他の誰かに迷惑や不安を与えてまで、遊びに熱中することがあってはならない。これからも麻雀とうまく付き合っていく気があるのなら、尚更である。

私の懸念をよそに、Kさんは開局から走ってダントツ。オーラスを迎えたときには私は2万点以上も離されていた。ここから下家のKさんからハネ直を取ることなど無理だろう。

半ば諦念の思いだった私の手牌は中盤、このような形になる。
七七八八八八九⑧⑧⑨788 ドラ⑧

789の三色を狙って進めていたのだが、ここにドラ※⑧が脇から放たれる。ポン。すぐに※8が出て、またポン。
七七八八八八九 888(ポン) ⑧⑧⑧(ポン) ドラ⑧
 
対々になればハネ満になる。
現状※六‐※九・※七待ちだが、役は三色同刻なので、※七でしか和了れない。

そして下家のKさんの手番。
Kさんが、私の手牌を睨んだ。Kさんは少し考えて、それから※七を切って来た。

満貫の、当たり牌である。
Kさんの指輪が、ちらついた。もちろん、Kさんにトップを取らせることが嫌なわけではない。しかし私は、ラス半コールを言えないKさんの、背中を無理にでも押したくなったのである。

ポン。私はKさんの※七を鳴いて、手から※八を切った。
八八八九 七七七(ポン) 888(ポン) ⑧⑧⑧(ポン) ドラ⑧

場に置かれた※八に、Kさんは訝しげな顔をする。
私は先ほどの、Kさんの思考を予想していた。多分、Kさんは私の三色同刻を考えて、※八が固まっていると思ったのではないだろうか。そしてKさんが払ってきた搭子は、※七※九ではないのだろうか。通常なら最初の※七で当たって2着を確保して構わないと思う。
しかし、どうしてもKさんからハネ直を取りたいのなら、下家のKさんにすぐに手番が回るのなら、※七はポンして良いのだと思う。

直後に河に置かれた牌は、Kさんのその夜最後の打牌になった。

麻雀を打つ多くの人々は、どこかで区切りをつけて、それぞれの日常に帰っていく。
私たちメンバーは、いつまでもラス半コールが言えぬまま、こうやって卓にしがみついて現実の世界に目を背け続けてきた中毒者の集まりなのである。

今回で、一旦このコラムは終了となる。今日までメンバーの境遇や心情というものについて、駄文ながら綴らせてもらって来た。未来も展望もない社会不適合者を、もちろん庇護して欲しいとは思わない。ただ、こうやって生きている人間の存在を、明日も明後日もラス半コールなく打ち続ける私たちの存在を、頭の片隅にでも入れておいて頂ければ幸いである。


107「成長と枷」

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麻雀というのはどういうわけか、覚えていくうちに色んなことが枷になって、下手を打ってしまうゲームなのではないかと思うことがある。
数年前、麻雀プロとしてあるタイトル戦の予選に出場したときの話である。
予選の最終戦、私はトップ条件で通過という位置であった。
プロ予選ということで、同卓者ももちろんプロ団体所属選手。しかも新鋭の若手1名と誰でも名を知るベテランの大御所2名との対戦である。肩に力が入り過ぎていなかったかといえば嘘になる。
団子のまま南入し、たまった供託をさらうべく、早い巡目で私が仕掛けた。
二三③④45689北 発発発(ポン) ドラ8

すぐにツモ※四、ツモ※8と来て、3900の聴牌。
二三四③④45688 発発発(ポン) ドラ8

ここにツモ※3と来て、三色変化のために※6と振り替える。首尾よくツモ※五と来て、また※二と振り替えた。
三四五③④34588 発発発(ポン) ドラ8

終盤、これに※⑤をツモって満貫。トップ目に立つ。巧く打てたな、と内心満足していた。
オーラス、親は対面。下家は2着目だが、満貫をツモられてもわずかに届かない。ただ、満貫直撃だけはどこにも出来ないので、慎重に局を終わらせたかった。
私は序盤に※中をポンしてこの形。
三四六六七七東東西北 中中中(ポン)


染める必要など無論ないのだが、意に反して寄ってしまった。ここに上家が※東を切って来る。思わずポンの声を飲み込んだ。
残った形が※三※四※六※六※七※七※北では、もしリーチでも受けた場合はあまりにも無防備だ。4頭立ての最終形が※六と※七の並びシャンポンになるのも怖い。※二‐※五‐※八は3度受けになるが、※東は安牌として持っておいた方がいいのではないだろうか。
その後、私は上家の切った※八をチー。
三四六七東東北 八六七(チー) 中中中(ポン)

この方が、和了りやすいはずだ。そう言い聞かせる私を嘲笑うように、下家が食い流れた※八、※五とツモ切る。対面の親も※六、※七とツモ切った。萬子が非常に場に安く、もし私が※東を鳴いていても容易に和了れたのではないか、という後悔が沸いてきた。
終盤やっと※二を引いて聴牌。
二三四六七東東 八六七(チー) 中中中(ポン)

そう確かに――、私が求めていた聴牌形はこんな感じだ。しかしもう萬子は粗方出ていて、両脇も降りにまわっていた。
それから親が押さえつけ気味にリーチ棒を投げてきて、結局私は当初の予定通り、※東を切って降りてしまう。そうすることで、飲み込んだ声を正当化したかったのかもしれない。流局して、親が見せた聴牌は、どうでもいいような愚形だった。
結局供託のリーチ棒のおかげで、下家が次局に簡単な満貫をツモって私は捲られる。

確かに私達は、日々麻雀に触れ、研鑽を積んでいるつもりにはなっている。しかし、それはただの自己満足ではないだろうか。
覚え立ての頃なら躊躇なく鳴けただろう。色んなことを考えて、結局ポンを飲み込んだのは――、成長なのか、そうでないのか。

106「木を見て森を見ず」

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オーラスを迎えてトップの西家と2400点差の南家。序盤にあっさりこんな手牌になった。
三四④④⑤⑤⑥⑦⑧⑧⑨赤567

メンピン赤の3900は欲しい。この形、私は以前検証したことがあって覚えていた。
※⑧切りが最も聴牌チャンスが広いのは明白なのだが、※③‐※⑥引きだけは即リーチができない。
※③‐※⑥を除いた聴牌チャンスは21枚である。
ちなみに※⑨切りでも21枚。
タンピンならダマに出来るのだが、※⑨切りは聴牌を逸する受けがある。

というわけで、私は※④を切った。
三四④⑤⑤⑥⑦⑧⑧⑨赤567

これならば※二※五※③※⑤※⑥※⑦※⑧の22枚で両面聴牌が望める。※⑨切りではペン※⑦引きを受け損なうのだ。
鳴きを念頭に置かず、即リーチを視野に入れて打つならばこの形が良いだろう。

木を見て森を見ず、という言葉がある。1本1本の木にとらわれて、森全体のことを見ないこと、つまりは瑣末なことにこだわって、物事の本質を捉えられないことをいう。

先日島根の実家に帰った折に、安来市にある足立美術館を訪れた。
足立美術館は館内に美しい庭園があることで有名な美術館であり、米国の日本庭園専門誌では、6年連続全国1位に輝いているという。
地元に住んでいるときはついぞ足を運ぶことはなかったのだが、離れて過ごしてみればその評判の高さに驚いたものである。

入り口を抜け、通路の角を曲がって飛び込んできた風景に息を呑む。壁面いっぱいのガラスを額縁として、見たことのないスケールの枯山水の庭園が、まるで絵画のように広がっていた。
この庭園の大きな特徴は、美術館の外、自然の森や切り立った崖といった風景までも、庭園の延長として全体の美しさの調和に一役買っているということである。
園内の木々や白砂の細かい部分に手入れの行き届いているのはもちろんなのだが、そういった一つ一つの庭園の要素が重要なのではない。我々が見て感動を抱くのは、館内という枠を越えて広がる、緑あふれる景色全体なのである。

三四④⑤⑤⑥⑦⑧⑧⑨赤567

この形、差は1枚だが巧く打ったはずだ。私はそんなことを考えながら一人悦に入っていた。
そこへ対面の北家からリーチが入る。同巡、上家の親が※⑧をツモ切った。しまった――。
供託のリーチ棒さえ出てしまえば、食い仕掛けの2000点で事足りる。だいたい500・1000ツモか2000点の直撃でもいいのだから、もとよりクイタンを見るのは当然であろう。
三四④④⑤⑤⑥⑦⑧⑧赤567

※⑨切りのこの形ならば自在に仕掛けられた。受け入れ枚数の瑣末な部分に気を取られて、肝心の大局観を見失っていたのである。
各種牌姿に対する枚数的有利を知識として知っているのは、もちろん重要だ。
しかし、細かい要素が折り重なって展開が変遷する局面の多い麻雀というゲームにおいて、より必要なのは全体を見据えることなのである。

足立美術館の庭園は、四季折々で様々な美しい姿を見せる。その自然を織り込んだ造形美を生む大きな要因は、秋を彩る紅葉や冬を染める銀雪であり、それが風景の全体を包んで調和しているのだ。
1本の木だけに目をやっては決して生まれない感動が、確かにそこにあった。

105「クライマー」

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昨今ではインターネット麻雀のデータの研究などにより、強者に共通の打ち筋とはどういうものであるかが明確になってきた。
強者はよく鳴き、よく和了る。
もちろん誰だって、簡単に門前で聴牌してリーチが出来ればこんなに楽なことはない。
しかし多くの場合は、一人平坦な道を易々と進めるわけもなく、鳴いて和了りのルートを自ら見出すことが重要になってくる。

常連に、登山が趣味という男性がいる。
冬でも夏でも日本中の山に出かける活動的な人で、その逞しい風貌を見ても、麻雀などという陰湿なテーブルゲームにはどう考えても合わない気がした。

その客は、卓内でもじっとしていられないのか――、常人よりもずっと副露が多かった。偶然門前で聴牌したとき、あるいは門前しか役が見込めない場合を除いて、全ての局で鳴いているような印象がある。
あまりにも鳴くもので、常連からもいい加減疎まれてきていた。ツモ筋が変わったり、自分が対応させられたりすることを、好まない者は大勢いるだろう。しかし彼は、常連の愚痴を涼しい顔をして流し、悠々と鳴く。
彼には、私には足りない何かがあった。

私がこんな仕掛けをして、後ろで彼がそれを見ていたことがあった。
二三四五五②②88北 発発発(ポン) ドラ②

そこへ上家が※一を切ってくる。※一は、場に3枚目。黙して、山に手を伸ばす。後ろの彼が、首を傾げた気がした。
それから私はツモ※三と来て、安牌の※北を放す。
二三三四五五②②88 発発発(ポン) ドラ②

数巡して私は※8をポン。とりあえず※一‐※四に受けたが、狙い目の※一はあと1枚。結局私の和了り牌は顔を見せず、脇に和了られてしまった。

「コレ鳴きました――?」

私が手牌の※二※三をつまんで見せる。

「聞かなくても、分かるだろ」

笑って答える彼に、私は肩をすくめた。

※一を鳴いて打※北としておくと、
四五五②②88 一二三(チー) 発発発(ポン) ドラ②

当然こちらの方が聴牌しやすく、和了りも早い。どうせすぐに切る※北を、私は何のために抱えていたのだろう。

シャンテン数の変わらない鳴きというものは、誰しも抵抗があるものだ。彼は、そういう麻雀の常識的な概念など気にも留めないで鳴く。確かに副露は守備力を低下させる。追いつかれたら降りることは難しい。しかし、それならば少しでも早く、和了りやすい形を作るべきなのだ。

私に足りないのは、和了りという最も重要な目的を達成するために必要なものの見極めであった。中途半端に仕掛けに走って、手牌に安牌の※北を残している。安全を追ったつもりで、その枷が和了りを遅らせ、かえって危険を起こしているのである。

彼が先日、富山の薬師岳に登った話をしていた。複数で山に登る場合は、お互いの荷物を事前に確認して、余計な物は先に除くのだという。お互いのためにと思って用意した食料が、結果その重量で進行を鈍らせ、全体の足を引っ張ってしまうのだ。

私は麓に足を踏み入れただけで、山を登った気になっていた。副露が多い者が、強者なのではない。枷を外し、臆せず山頂へのルートを築くことが重要なのである。

「お前も山、登ってみるか」

冗談交じりに彼が言う。

「――聞かなくても、分かるでしょう」

今度は私が笑って、そう答えた。

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104「発想の機会」

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私たちは、普段麻雀をしていて迷う局面というのがあまりない。
だいたい与えられた状況というものはパターン化しているもので、極端に変わった打ち方とか奇を衒った打牌をする必要はない。私たちは日々、粛々と打ち続けるだけなのだ。

ただ、時に悩む局面を与えられないと、柔軟な発想というものは手に入れられないかもしれない。和了りにかける自由な構想を作り出すのは、惰性の毎日ではなく疑問の機会なのである。
二四六七122579④赤⑤白中

ある日、こんな序盤の形から、役牌を抱えて※1を切ってしまっていた。
これがツモ※二、※3、※8、※3と来てこうなった。
二二六七22335789④赤⑤ ドラ二

どうしても和了りたい満貫手なのだが、最初に※1を切っている。では――、どう打てば良いのだろうか。

以前、親戚の高校生の子がこんな質問をしてきたことがある。

「水の沸点って100℃でしょう。どうしてそんなに覚えやすい数字なの?例えばエタノールの沸点は78℃とか、他の物質は半端なのに」

私はそれを聞いたとき、逆に不思議な気分になった。確かに、知らない人は知らないことだが、知っている人にとっては質問の内容自体が妙な話なのである。
彼は、普通の高校で勉強しているごく真っ当な学生だ。勉強が出来ないというわけではない。
うちの同僚何人かに、興味本位で同じ質問をしてみた。
「どうして水の沸点は100℃なのか」
すると意外にも、何人かは言葉に詰まる。
なるほど確かに、多くの者はその疑問すら抱かないのかもしれない。当たり前のように身の回りで成立している事象に、難癖をつけろという方が無理があるだろう。
それでも疑問に行き着いた以上は、後は柔軟な発想を以って取り組みさえすれば自ずと道は開ける。悩む局面に出会うことは、発想の機会を与えられた幸運なのである。

私はこの牌姿、唯一の面子を壊すことが柔軟な発想だと思った。
二二六七2233578④赤⑤ ドラ二

打※9である。※1がフリテンなら、※2や※3、※4や※6も鳴いていった方が早い。となれば、タンヤオで4面子を構想すれば※9は不要なのである。
もちろん適当に※5あたりを抜いて、フリテンの※1-※4ツモや※2※3引きを期待することも出来るのだが、もう中盤であり、実際萬子や筒子も鳴いて行った方が良い。
これは門前派とか仕掛け派とか関係なしに、打※9が和了りにかけるなら優れていると思う。
※9の枷を外した私は、そこから悠々と副露に走り、和了りの解答を得たのである。
二二六七 222(ポン) 435(チー) ⑥④赤⑤(チー) ツモ八 ドラ二

もともと、温度の指標そのものが、水を基準として出来たのである。
水の凝固点を0℃、水の沸点を100℃として摂氏温度は決められている。
柔軟な発想で問題に向かえば、万物の尺度には自然科学的な根拠があること、そういった興味深い本質まで手が届くのである。
高校生の彼には、答えを教えなかった。自分が疑問を持てること、それは大切な成長の機会なのである。

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