Quantcast
Channel: 東風戦メンバー戦記
Viewing all 56 articles
Browse latest View live

103「小さな気遣い」

$
0
0

以前、常連の男性に連れ合いのママさんがいて、よく一緒に打ちに来ていた。
ママさんはたまに旦那の交代で打つくらいで、普段は後ろで楽しそうに麻雀を眺めていた。
いつも穏やかで控え目な様子の人で、よく我々従業員にご飯を作ってきてくれたりして、細やかな気遣いの利く人であった。

一一⑤⑤⑥⑥⑦4赤5668発発 ドラ5

あるとき私はこんな牌姿。
下家にはその旦那さんがいて、後ろでママさんは観戦中である。
私は※8を切って、※発のポンテンと七対子の天秤に受けた。
一一⑤⑤⑥⑥⑦4赤566発発 ドラ5

場に※6が1枚出ていて※7に色気もあったのだが、自然な形はこうだろう。
案の定、次巡すぐツモって来たのは、※7。極力平静を装いながらそのまま河に投げる。

「乱暴ねえ――」

後ろ見をしていたママさんが、ふとつぶやいた。
何が乱暴だったんだろう?カン※7を取り損ねたことか?
それとも指先にシクリの熱さがにじんでいたのだろうか?

そのとき確かに違和感があった。惰性の日々に対する慣れが、配慮に欠ける打牌を生んでいる気がした。
麻雀における細やかな気遣いというものを――、私はおろそかにしてはいないだろうか。

そういえば、これは実家にいた頃の話なのだが、トイレを使った後、よく姉に怒られた。
その内容は、こういうことだ。

「どうして男の人は、便座を“戻して”おかないの?」
私にとってはそれはひどく不可解な文句であった。

いやいや便座ってのは上がってるものじゃないの?
むしろ下がっていると面倒臭いと思うんだけど。

しかし考えてみれば、女性にとっては便座は下りているのが当たり前の話で、姉の言い分もなんとなく理解はしていた。
ともあれ、それぞれが上げたり下げたりすれば済むことだと思っていた。

しかしこのママさんがトイレを使った後に入ると、いつも便座が上がっているのである。最初のうちは意識しなかったのだが、姉の小言を思い出して、やっと気がついた。

このママさんは、旦那を始めとした他の男性客や従業員のために、必ず便座を“戻して”出てくれるのである。
トイレを使う客にも色んな人がいる。
便座を上げるのが汚いと言って、下がったまま用を足す男性も多いのだ。

私はすぐに前巡ツモ切ったばかりの※7を持ってきて、やっと自分の粗暴さを知る。
一一⑤⑤⑥⑥⑦4赤566発発 ツモ7 ドラ5

七対子聴牌を逃した。この形、※発のポンテンと七対子の天秤ならば、最初のツモ※7のときにドラ表示牌の※4を切るべきなのである。※7に色気があったのなら尚更だ。
小さなことだが、※7ツモ切りは、確かに熟慮のない一打であった。
ママさんの方を振り返ると、仕方ないね、と優しく微笑んでいた。
女性らしく、細かい部分に気が利くママさんは、即座に私の失着に気付いたのである。

「旦那さんよりしっかりしてるんじゃない?」
麻雀についても周囲がそんな風にママさんをはやし立てると、ママさんは困ったように手を横に振って笑う。
それはもちろん、それを聞いて面白くない旦那を気遣ってのことだ。

旦那も、自宅では便座をわざわざ上げる必要もなく用を足しているのだろう。
私達の生活はこうした誰かの小さな気遣いというものに支えられて、円滑に動いているのである。
便座一つでも、自分の気遣いの足りなさを教えてくれるものなのだ。


102「轟盲牌」

$
0
0

その常連は、あまり人に好かれるタイプの客ではなかったと思う。
いつもおどおどして口数も少なく大人しい印象なのだが、ひとたび祝儀を引いて大きなトップを取ったりすると、突然
「あ、もう時間だ」
と席を立って抜けてしまうのである。

もちろん本当に時間に余裕がない、というわけではなく、余裕がないのはきっと違う部分なのであろうが――、いつもそうやって勝ち逃げを図ろうとする彼に、他の客もいい加減辟易していた。
「ラス半コールして下さいね」
店も何度もそう言っているのだが、いざ彼がラス半を口にしても、結局トップを引けなかった場合に、
「あ、あの、もう1回やってもいいですか」
などと自ら引き伸ばしをしてしまうので、待ち客でもいない限りはそのまま居座ってもらうことになる。
店としてはいつ止めてくれてもまあ構わないのだが、他の客からすれば、トップ抜けされるのはやはり面白くないだろう。
大概は、この客にだけはトップを取らせまいと、暗黙の結託が結ばれることになる。
勝ち方も負け方も、大人の作法を知っている方が長い目で見れば得するのは鉄火場の常識かもしれない。
この客はもちろんそんな気配りなど持ち合わせておらず、当然のところ、麻雀も周囲の状況などお構いなしの絵合わせであった。
放銃もとても多く、愚形のノミ手リーチばかりで、実際特に周りも結託する必要などなく、自然に任せておけばトップは脇へ流れるのが常だった。
彼は色んな面で余裕がなく、臆病だったんだと思う。

最近人気を博した麻雀漫画で「轟盲牌」という描写があった。
牌を強く盲牌することで、表面を削って※白に変えてしまうという破天荒な技である。
彼がツモるときはまさしくそんな様子で、息を荒立てながらぐりぐり盲牌しながら持ってくる。
あまりにぐりぐりとやるもので、他の雀荘で怒られたこともあるらしい。
力強く牌を握ってみても何も結果は変わらない。
それでもなんというか、自分の手だけを見て、おどおどしながらも必死に打つ彼のことが、私はそう嫌いではなかった。
無論、トップ抜けで多少の浮きで帰ることもあるけれど、手持ちがなくなって強制ラス半になって苦笑を誘うことの方がずっと多かったのである。

あるとき、負けが込んでいた彼が必死な形相でリーチをかけた。ふと目をやると、こんな形である。
二二③③⑥⑧⑧1155北北 ドラ北

七対子ドラドラの※⑥単騎。
もっといい待ちはないのかよ、と宣言牌を見ると※4。まあどっちに取ったって大差はないが、それにしたって即リーしなくても良さそうなものだ。

と、卓上を見て愕然とする。
脇が――※⑥をポンしているのである。
■■■■■■■■■■ ⑥⑥⑥(ポン)

いかに河を見ないからってこれは酷すぎる。
せっかくの勝負手が水の泡だ。
彼がいつものようにぐりぐりと牌を擦ってはツモ切りを繰り返す。
そんな純カラで一所懸命牌を握りしめたって駄目だ。
私は、半ば同情の思いで彼の悲しい轟盲牌を眺めていた。

そして彼に奇跡が起きる。

「ツ、ツモ」

二二③③⑥⑧⑧1155北北 ツモ白ポッチ ドラ北
 
なんと※白ポッチのツモ和了り。
本当に轟盲牌で※白になってしまった。
そして裏ドラをめくるとそれが※⑥なのである。

リーヅモ七対子ドラドラ裏裏で、倍満。
同卓者が引っくり返った。
感嘆する私をよそに、彼はごく当然のように、「ラス半で」と言い放った。

PR: パナセンスでWiMAXがお得!キャンペーン実施中

101「言い訳」

$
0
0

インターネット麻雀が世に現れて久しい。近頃は、牌を握ったことすらない打ち手も強者として名を馳せる時代だ。
上家の若者は、ネットの麻雀で経験を積んで、武者修行に来たと話していた。
どうしてどうして、牌捌きも見事なもので、摸打の速さも目を見張った。
しかし、ネットの麻雀と実際の麻雀では違う部分がいくつもある。
祝儀やレートに日和ったり、雰囲気に呑まれたり、場慣れしていない者が力を発揮できるかどうかは難しいところであろう。
まあ負けても言い訳は立つさ、と先達の思いで若者を見守っていた。

ある局の始め、ドラは※東であった。
親の若者はそれまでと変わらぬモーションで、前の者が切るやすぐに手を伸ばして、すっ、すっと牌を引き寄せる。
皆がそれに釣られるように、先ヅモに近い様子で手を伸ばしていた。
それを見て私は3巡目、手牌に邪魔だったドラの※東をつまんだ。
三者の所作を注視していれば、誰もが鳴く素振りがないのはすぐに分かる。
実際の麻雀にはこういう経験の差もあるさ、と手牌もまとまらぬうちから、悠々の心持ちで※東を投げたのである。
「ポン!」
若者が、驚いた様子で声をあげる。
驚いたのはこっちもだ。親にドラのダブ※東を鳴かせ、他の二人があからさまに眉をひそめた。違う、違うんだ。
若者が、今重なったんです、と申し訳なさそうに頭を掻いた。
彼は終盤、赤1枚つきの6000オールを引き和了る。
私は余計な情報を持ち込んだ自分勝手な言い訳を、ぐっと噛み殺すしかなかった。
ネットからの刺客に翻弄されながら、私はそれでも先刻の汚名を返上するべく反撃の機会を伺っていた。

ある局、仕掛けていたのは対面で、下家から※六をポンしていた。私は
三三三四五④⑥⑧22445

こんな形だったのだが、ぐいっとポンカスの※六を持って来てほくそ笑んだ。
と、その瞬間、上家の若者が切った※中を、対面がやや遅れた様子でポンと言う。
■■■■■■■ 中中中(ポン) 六六六(ポン)

私の※六は食い上がり、若者の手の内に入った。
薄い※三‐※六を取られちまったな、と若者の切りを無遠慮に恨んだ。
私は攻撃の一手を逸し、そして数巡後、若者からリーチがかかった。
北白18⑨一中九八東(リーチ)

私は一発目に安牌がない。
三三三四五④⑥⑧22445 ツモ④

そのときふと、先ほど食い上がったポンカスの※六のことを思い出した。
※三‐※六は、若者の手に面子で入っている。
ならばここは、※三を落とせるんじゃないか。場には※二が4枚見えており、ペン※三の可能性もなかった。※三‐※六は、入っているんだ。
――また、若者が驚いた様子で声を上げた。
「ロン!」
四四五赤五六①①456789

※六は無いんですけどね、とやはり若者が頭を掻いた。
ネットと実際の麻雀は違う、だって?現実でしか分かりえない情報に振り回されて、失着を繰り返したのは浅はかな自分なのであった。
私は、負けても言い訳は立つさ、と若者に独りよがりの老婆心を持ったことを心から恥じた。
負けた言い訳を現実の麻雀に求めたのは、ここにいる、他ならぬ思い上がった先達だったのである。

100「接客と勝負」

$
0
0

平日の深夜、常連とスリー入りで細々と卓を囲んでいた。
客が少ないのは今に始まったことではないが、スリー入りはメンバー同士の食い合いになるので、出来れば店としては避けたいものだ。
もう一人くらい客がいれば、雀荘としてはどうにか形を成しているといえなくもないのだが――。
カランカランとドアが開いて、30代半ばと思しき痩躯の男性が入ってくる。
手荷物らしきものは、携帯と煙草だけ。
私達の注視を振り払うように、初めてなんですけど、と男性が答えた。
これは助かった、と恭しく男性を迎え入れる。
男性は、慣れた様子でルール説明を聞き、次の半荘から卓に入った。
しかし安堵の思いも束の間、私は数局打ってすぐ気を引き締めることになる。
新規の客が訪れると、私達はまず客の色んな所を見る。
雀荘には慣れているか、社交的な方か、この店の空気は合うか、そしてどの程度の腕の持ち主なのか――。
この男性は、相当なものだった。
接客業の立場から言えば、客を値踏みするなんてとんでもないが、どうしても相手の巧拙には敏感になってしまう。
これは接客でもあり、勝負でもあるからだ。
摸打も早く、和了りも鋭い。
男性は順当に初回にトップをさらい、その後も連帯を重ねた。
回が進むにつれ、寡黙に見えた男性も口を開くようになる。
聞けば、やはりあちこちの雀荘に詳しく、勝負の経験も豊富なのが分かる。
雀荘に来る客には二通りある。
牌戯に一時の快楽を求めて来るのか、シビアに博打の稼ぎを求めて来るのか。
この男性は、後者なのだろうと思った。
普段は繁華街の雀荘を渡り歩いて、今日は外れの店に足を伸ばしてみたといったところか。
男性のカゴに勝ち金が積もる。
瑣末なプライドが頭をよぎった。
このまま甘い店と思われるのも悔しい。

和了りトップのオーラス、私はこんな形のイーシャンテンだった。
①②③④⑥⑦⑧⑨13499 ドラ①

そしてすぐ、上家から※2がこぼれる。「チー」発声してみて、ふと自分の河を見た。鳴くなら、こうしよう。※2※1※3と晒して、打※4。
①②③④⑥⑦⑧⑨99 213(チー) ドラ①

カン※⑤の聴牌。私の捨て牌はこう。
八北七西五68一4

ドラは※①だ。下の三色も視野に入れていたため、期せずして捨て牌も上目に寄っている。
※2※1※3と見せることによって、筒子も下目を警戒してくれるかもしれない。
数巡の後、下家の男性の切り番。
男性が少考する。
私の打※4を見ている。
男性が、赤※⑤を抜いた。
「――ロン!」
一通赤ドラの3900。
男性はこの放銃でラスに落ちてしまった。
おそらく男性は聴牌で、※②を切ろうか赤※⑤を切ろうか迷ったのだろう。
手の内の一牌を卓に打ちつけ、しばし苦渋の表情をした。
男性がラス半をかけ、彼は3着で席を立った。
少しだけ、気まずい感じがした。
「ありがとうございました。またお願いします」
扉口で努めて明るく見送る私に、彼は
「また来るよ」
と言って雰囲気を取り繕った。
帰り際に後を濁さないのも手慣れているのだろう。
無論、彼がもう来ることはなかった。
いい勝負なんて、求めていなかったのだ。
彼は狩場を探して、こうやって方々の雀荘を訪れているのに過ぎない。
彼が来なくなったのは、私を打ち手として認めてくれたからかもしれない。
それでも接客としては、勝負に拘り過ぎる麻雀は、望ましくないものだ。
強いと思われたかったのか?自戒して、自分の矮小さを笑った。

病葉流れて第1巻発売します。

$
0
0
$東風戦メンバー戦記

5月17日、私が脚本をしている「病葉流れて」の第1巻が発売されます。

Amazonは→こちら

送料無料で予約できます。

白川道先生原作の小説の雰囲気もとてもカッコいいのですが、
麻雀漫画としてアレンジしたこちらも是非ご覧ください!

なかなか漫画の装丁もカッコよくないですか?(笑)

9月15日発売の近代麻雀に。

$
0
0
井田ヒロト先生の書き下ろし特別読み切り、

「東大を出たけれど episode:0 月下の雀荘」

が掲載されます。

多分単行本になることはなかなかないと思いますので・・・

是非近代麻雀を購入して保存して下さい!

どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m


$東風戦メンバー戦記

PR: デザイナーの求人情報・転職支援はマスメディアン


ソーシャル麻雀マッチングサービス「ワンセット」スタート!!

$
0
0

facebookの方で、
「ワンセット」
という企画が始まりました。

ワンセットは、Facebook上の友達とペアを組んで、
ペアマッチ形式で麻雀の対戦相手を募集できる
ソーシャル麻雀マッチングサービスです。
無料でご利用いただけます。
Facebookアカウントを持っていればすぐに登録、利用でき、麻雀を通じた交流をお楽しみいただくことができます。
また、安心してご利用いただけるよう、対戦相手の情報は登録されたプロフィールで見ることができるほか、
Facebookページへのリンクからも見ることができます。

その中で、プレミアム対局というサービスがありまして、
ワンセットで登録したペアで著名人や麻雀プロに対戦を申し込めるようになっています。
応募者の中から抽選で選ばれた当選者のペアと対局します。

http://1set.me/s/premium_event

私も、プロ協会ペアとして、鈴木たろう&須田良規で参加いたします。
申し込みは無料です!

開催日 10月28日(日) 12:00-15:00
応募締め切り 10月22日(日)

となっておりますので、対局してみたい方は、是非お申し込み下さい!

イキモノ日本紀行。

$
0
0
ひかりTVの「イキモノ日本紀行」という番組で、
ちょろっとトークゲストをさせていただきました!
http://www.hikaritv.net/hikaritvch/ikimono/

10月12日(金)22:30~

日本のイキな心意気を伝えるモノ、イキモノを紹介していく番組です。
何名かのゲスト様の中の1枠ですので時間も短いですが、
視聴できる方は是非ご覧下さい!

私の考えるイキモノとは、何でしょう?

書籍「東大を出たけれど」が発売されます。

$
0
0

ご無沙汰しております。
宣伝をさせて頂きます。

東大を出たけれど 麻雀に憑かれた男 [単行本(ソフトカバー)]
須田 良規 (著)
価格:¥ 1,260 通常配送無料


来たる11月21日に、
昔近代麻雀で連載しておりましたコラム版「東大を出たけれど」が、
ついに単行本で発売されることになりました。

連載時からお世話になっていましたカネポン(金本ですw)には、
本当に感謝です。

漫画の単行本はすでに読まれた方も多いと思いますが、
コラムの方はこうやってまとめて出るのは初めてですので、
是非皆さんに手に取って読んで頂きたいです。

「麻雀放浪記」「病葉流れて」などの私も大好きな麻雀小説のように、
活字の麻雀読み物として、皆さんも楽しんで頂けたらなあ、と思います。

amazonで予約開始しております。
どうぞよろしくお願いいたします。

発売されました!

$
0
0

$東風戦メンバー戦記-書籍


11月21日に、「東大を出たけれど」がついに発売されました。
過去近代麻雀で連載していましたコラムの単行本です。

漫画版は、こちらのコラムを元にして作られました。
漫画との違いを確認されるのも面白いかと思います。

是非、読んで下さいね!


(以下第一話より一部抜粋)
雀荘での夜番が明け、通勤するくたびれたサラリーマンや賑やかな学生達と一緒に、電車に乗り込む。
疎外感なのか優越感なのか――、自分でもはっきりしないが、これから一日が始まる彼らとすれ違いに帰途に着くことに、妙な感覚を覚える。いつからだろう。歪んできたのは。

吹き溜まりのような場末の雀荘で拙い腕を振るい、卓上の小さな勝ち負けに執着する毎日。今後の人生の不安や生活の苦しさを考えれば、普通の人間ならばいつか足を洗うのが当たり前だろう。
水が合った、といえば聞こえがいいが、私が足を踏み入れたのは、沼だ。まっとうな仕事を選択する道もいくらでもあったのだろうが、私は麻雀に嵌り、雀荘で打ちながら接客するというこの妙な仕事から抜けられなくなってしまったのである。
雀荘メンバーというのは、フロアに立って客にドリンクや食事を出したり、ゲーム代を集めたり、そして面子合わせに自腹で麻雀を打ったりするという特殊な職業だ。
無論鉄火場であるから、いろんな客がいる。優しい者ばかりではない。堅気の商売ではない者もいるし、会社をさぼってそのまま辞めてしまう者もいる。負けて借金まみれになった客も沢山見てきた。
かといって自分が麻雀で給料をなくしてしまっては生活ができない。相応の実力は求められるし、それで客の機嫌を損ねないようにする社交性も必要である。
麻雀が好きだから、と瑣末なプライドをもって今の仕事を正当化しようとしても、どこかでそれを逃げ道にしている意識も常にあった。会社勤めがしたいかというと嘘になる。
そんな葛藤に向き合いながら、ただただ毎日を牌に埋もれて今も過ごしている。晴れない霧を彷徨うように。

東大流 麻雀実戦名手‐神品‐ (マイナビ麻雀BOOKS)

$
0
0

さて、マイナビより先日
東大流 麻雀実戦名手‐神品‐ (マイナビ麻雀BOOKS) 」が発売されました。
神品

こちらは一応戦術本というジャンルですが、
過去近代麻雀に掲載されたコラム「東大を出たけれど」から、
戦術として役立ちそうなものを集めて、まとめたものです。

書籍版「東大を出たけれど」未掲載分も含め、
コラムとその解説という形式になっています。

ですから、純粋に読み物として楽しんでいただけると思います。

「麻雀本を斬る!麻雀ゲームを斬る!!」というサイトで、レビューをいただきました。
(総合評価97点!感謝です)

書籍版「東大を出たけれど」では物足りなかった方、
麻雀コラムがお好きな方、
ぜひともご覧下さい!

福地さんに無理やり買ってもらった。

$
0
0

麻雀ライターの福地誠さんに、「神品」を無理やり買っていただきました。

福地

福地さんは昔から本当に面倒見のいい方で、
出来の悪い後輩のことをなんだかんだで取り上げてくれるんですよね。

そうしたらこんな記事が。
【つぶ】後ろ向きの理屈

前書きだけ読んでみたら、こんなことが。
 * * *
雀荘には、独特の空気がある。
麻雀の研究という点ではネット麻雀に劣るけど、雀荘でしか味わえない人間関係ってもんがあって、それにも少しは目を向けてよね。
(要旨)
 * * *
嫌になっちゃうな。
ネット麻雀ばっかのやつが、この文章を読んで、じゃあ雀荘に行ってみようと思うかといったら、思うわけがない。
老人が集まって、「スポーツでもなんでも、今どきの若いもんは数値主義でロマンがない」とか言ってるのと、同じ理屈の立て方。
こういうの嫌いなんだよな。
内容じゃなく、発想として。
「東大を出たけれど」の「れど」がくっついてる発想法。
なぜ、もっと開き直って、雀荘の魅力をストレートな言葉にできないのか。
あまりにも魅力がなく、自虐芸にもなってねー。



先輩、難しくてよくわからんとです・・・。

前書きはこうですね。

生の麻雀を、十年以上私は見てきた。天鳳位のASAPIN氏のように、ネット麻雀の経験が豊富なわけではない。強さを求めるという観点では、彼らの方がより濃密な時間を過ごして来ただろう。私ももちろん彼らの戦術を参考にするし、勉強になることは多い。
ただ、雀荘には、雀荘でしか味わえない空気と戦いがある。そういうものが好きな人も、決して少なくないと思う。
本書では、私のメンバー経験を元にしたコラムから、皆さんの役に立つような戦術、面白い知識などを解説していこうと思う。雀荘での十年は、ネット麻雀を十年打つことに戦術の研究という面では劣る。しかし、そこで繰り広げられる闘牌も、人間模様も、雀荘でしか体験できないことは沢山あるのである。



福地さんも私が働いていた木馬館の常連&先輩メンバーだったので、
雀荘の空気が嫌いなわけじゃないと思うんですけどね。

一応本の内容が「雀荘での経験(=「東大を出たけれど」)からの戦術論展開」なので、

雀荘で培った戦術もいいもんですよ、ついでにそこでの人間模様も面白いですよ、

という薦め方をしたかったんですが。

まあネット麻雀が好きな人が、もちろん無理に雀荘に来ることはないですよ!
嫌なことも当然あります。

こうやって本を読んで、雰囲気を味わうだけでもいいんじゃないでしょうか。

私だって麻雀放浪記などは大好きです。
実際に博徒の真似事をしようとは思いませんけどね。

まあ単にコラムとして面白ければ私としては十分です。

福地さん、いつもありがとうございます!

↓買います(・∀・)

これだけで勝てる! 麻雀の基本形80

最高位戦クラシックと、わがまま。

$
0
0

本日7月21日(月)、僕は最高位戦クラシックのベスト32で敗退した。

僕はあまりタイトル戦というものに出ない。
家人が土日祝日も仕事があるので、小さな子のいる身で週末に麻雀の対局ばかり詰め込むのは、金銭的にも時間的にも楽な話ではないのである。

ただクラシックだけは自分が特に好きなルールであり、予選も1組という一番上のシードからなので、毎年家人に無理を言って出場させてもらっている。
クラシックは、一発裏なし、ノーテン罰符なし、親は和了り連荘、という競技色の強いルールだ。

僕は、4・5・6月に銀座で行われた予選を勝ち抜いて、7月20日(日)の本戦に出た。
しかし、その日家人は仕事で、仕方がないので大崎にいる家人のママ友達にお願いして、子どもを預かってもらうことにした。
朝11時に大崎まで子どもを連れて行き、12時開始の神田の対局会場へ向かう。
半荘6回戦の長丁場である。

対局中もずっと、子どものことが気がかりではあった。
預けた友達もその子達とも、会うのは半年ぶり。
迷惑をかけていないか、子どもも寂しがっていないか。

最終戦は夕方18時40分に開始。
僕はその半荘プラスならその日は通過、というところ。翌日のベスト32に進める。

しかし、オーラスまで自分はラス目、トップまで14000点差。
クラシックルールは親は和了り連荘なので、親で点数を積み上げることはそう容易ではない。

自分の手は、14巡目にこうなった。
34456999p白白白中中 ドラなし

終盤にこんなメンホンなど、和了れるものではない。
15、16巡目とむなしくツモ切る。
もう、今年のクラシックはあと2巡で終わりだ。

そう思ったところで2pをツモった。
これでトップである。全く最後まで麻雀はわからない。

僕がそれをツモった瞬間、何を考えたかというと

「明日は子ども、どうしよう・・・」

であった。

もちろん負ければそんなことを考えないで済む。
埋まるかどうかわからない予定のために、家人に連日仕事をあけておいてもらうのも難しいのである。

通過は決まりなので、結果発表も待たず、対局会場をあとにする。
ずいぶん遅くなってしまった。
大崎に着いたのは20時過ぎ。駅で子どもを迎える。

子どもを見ることがどんなに大変なのかは、僕もわかっている。
友達には、深く深く頭を下げた。

帰りの電車で、子どもは疲れて寝てしまう。
先方の子達と楽しく過ごせたようだ。

電車の中で託児所を調べていた。
が、なかなか気が向かない。
子どもも、顔見知りならともかく、知らない人ばかりの、知らない場所など、何時間もいたくはないだろう。
21時。だめもとで知り合いに何人か電話をする。
が、つかまらない。
まあ仕方ない、明日は辞退するかな、と思っていた。

22時、協会の崎見さんに電話してみる。

もちろん今まで崎見さんにこんなお願いをしたことはない。
うちの子に会ったのも、赤ん坊の頃にほんの少しだけである。

「いいよ、連れておいでよ!困ったときはお互いさまだよ!」

崎見さんは、二つ返事でOKしてくれた。
崎見さんは子どもがいる身で対局に出る苦労を知っているので、とても優しかった。

「そのかわり頑張りなよー?」

そう、僕はこうやって周りの人にも、子どもにも迷惑をかけながら対局に出ているのである。

そして21日の朝、今度は麻布の崎見さんのところへ子どもを連れて行った。

12時開始のベスト32、今度は神楽坂が会場だ。

結果は最初に書いた通りの敗退。

子どもを崎見さんのところに迎えに行って、謝る。
全力を尽くしましたが、負けました。
せっかく無理を言って預かって頂いたのに、すいません。

帰りの電車、また子どもは疲れて寝てしまう。

眠気で暖かくなった子どもの手を握りながら、今日の対局を振り返っていた。

初戦、西家でオーラスの和了りトップ、

46789m33779p チー213m ドラ6s

親が役牌を一つだけさらして、テンパイ模様だ。
僕はここにドラの6sツモ。
通るかどうかわからない。ピンズの場況はすごく良かったが、とりあえず打9p。

46789m3377p6s チー213m ドラ6s

すぐ上家が打5m。
チーしてドラを切った。
すると親は45678sで、5800の放銃。ラスになる。


次の半荘。

2467789m56p48s北北中 ドラ7m

親でこんな配牌から第1打に中を切った。
その後、下家が発をポン。
すぐ4mが重なり、数牌を絞るつもりで北を切ったら、下家がそれもポン。
北をもう1枚切る間もなく、初巡に切った中をツモ切ったらまたポン。

■■■■ ポン中 ポン北 ポン発

これが5巡目くらいである。

こちらも、

4467789m567p234s ドラ7m

この形で南家の現張りになったのだが、9pをツモ切ってトイトイの満貫を献上。

これもラス。


また次の半荘の親番。

67m12367p6677s東東 ツモ8s ドラ7s

ダブ東をポンしようと思っていたが、ツモ8sで迷う。
マンズとピンズは場況が良く見えたので、東ポンも考えて打6s。

67m12367p6778s東東 ドラ7s

ここに、三色にならないツモ5mでまた迷う。

567m12367p6778s東東 ドラ7s

8sを切るのもありかもしれない。しかし僕は結局凡庸にテンパイを取って、すぐ5pをツモった。

567m12367p678s東東 ツモ5p ドラ7s

1000オール。
ここでフリテンリーチをすべきだったか。
いやそれよりもともとリーチなのか。
いや8sを切っていればここでドラと東のシャンポン待ちか。
いやもっと前にツモ8sでマンズかピンズを払うべきだったのか。

この次局は、9巡目に切ったテンパイ打牌が、北家のダマテンタンピンドラドラに刺さって7700は8000。
またラスだ。


まあこんな感じで、反省というかなんというか、負けっぷりを噛み締めながら帰る。
子どもは僕に寄りかかって、すやすや寝ている。
昨日も今日も、本当によく頑張ってくれたね。

慣れないところに2日間、ママもパパもいないところで過ごした子どもは大変だっただろう。
もちろん預かってくれた友達や崎見さんも、ずいぶんと気を遣ってくれただろう。

こんなことなら20日の本戦は負けていた方が良かったのだろうか?



麻雀プロというのは、どうしようもない存在だと思う人もいるかもしれない。

銀座で、神田で、神楽坂で、周囲に迷惑をかけながら勝ち進んだものの、負ければ結局それでおしまいである。

参加費を払って、休日を潰して、何のためにやっているのかと言われたら答えようがない。

好きだからやっているのである。

何度負けようが。
誰に迷惑をかけようが。
ごめんなさい、これが好きだからとしか言いようがない。

だからこそ、勝った人は凄い。なかなか伝わらないけれど。
勝ち続けるというのはそれだけで凄いことだ。

僕は負けました。
しかし来年も出ます。

子どもよ許せ。他の日は一緒に過ごすから。
頑張ってくれて本当にありがとう。

周りの皆さんも、いつもご迷惑をかけてすいません。

麻雀プロは、わがままだ。


降級と、サンキュー。

$
0
0

先日最高位戦のAリーグ全日程が終了し、
決定戦進出者と残留者、そして降級者が確定した。

そういえば協会の自分のことを書いてなかったので、
思うところを記録しておこうと思う。


木原浩一プロのブログマガジンに、こんな記事があった。

現役麻雀プロがガチで「天鳳位」を目指すブログマガジン

Aリーグ最終節の話と9月6日の十段坂

ご存知の方も多いと思うが、僕は今年の第13期Aリーグで15人中14位となって降級が決まった。(下位3人降級)

僕は第1期後期で入会し、第4期からAリーグに在籍した。
都合10年Aリーグにいたことになる。

今年の最終節は9月6日だった。
前節までの時点で僕は13位。
同卓の浪江が約90p上の12位だったので、浪江をまくっての残留は十分現実的なことだった。

初戦、浪江が起親でややリード。
その連荘中、北家の金が8巡目にリーチしてきた。

西家の自分の手牌は、せいぜいピンフ三色のリャンシャンテンというところ。
大した手でもないので、すでに場に2枚切れの白と北を抱えてスリムに構えていた。

リーグ戦の対局で、いい加減に打つことなどもちろんない。
3者それぞれに対し、後々何が切りにくくなるかは当然考えながら打っている。

問題は、この白も北も金の現物ではなかったことだ。
地獄単騎も警戒しないわけではないが、他に現物もなく、僕は一発目に白を切って、国士無双を放銃する。

競技生活13年目にして、初の役満放銃だった。

それでも、失敗したとか悔しいとかいう気持ちは微塵もなかった。
仕方ない、としか思わない。
白を残しただけの理由もあるし、金が国士と決めつけられる捨て牌でもなかった。

ハイ、と言って点棒を支払った。

あの時――白を1巡前に離していれば
もしかしたら浪江が掴んで自分が残留していたかもしれない――

そんな考えても仕方のない、本当に下らない結果論まで頭に浮かんで
1人虚無感に打ちひしがれる。そういうものなのだ。
(木原プロの記事より)


そうだね・・・。
まあ国士については、あまり思わなかったかな。
自分の中では、次の半荘のオーラスのことが、心残りではあるかも。


オーラス1本場。
僕は西家でトップ目だった。
北家の金が4500点差の2着目。すぐ下に親の達也がいた。

678p3577s チー345m ポン555p ドラ発

自分はこのテンパイ。

金が前々巡に僕から6pをポンしている。何点かはわからない。

ただ、トイトイではなく、普通の面子手だ。2着取りのタンヤオのようにも見える。

11巡目くらいか。ここに6sを持ってきた。

金は6pをポンしたとき、打6s。
次巡に手出しの6mだ。

・・・3sを切って、良いものだろうか?

しばし考えた。
金にドラアンコのカン3s待ち・・・あるだろうか。
逆に言えば、ドラアンコのカン3s待ちの場合のみ、切ってはいけない。

一応ここで降りても、ノーテン罰符ではまくられない。
ただラス親は達也で、達也はそのときトータルポイント首位。決定戦進出はほぼ確定していた。

その達也は、前局終盤に愚形リーチをかけて、親の一人テンパイにより連荘している。

これは打ち手によるのだが、そのときの決定戦確定の達也の思考は、「普通に打つ」であり、
「静観して流す」ではなかったことが見て取れる。

敵は、金だけではない。長引けば達也にもまくられると思っていた。

678p3577s チー345m ポン555p ツモ6s ドラ発

少考の後、僕はここで金の現物の6sを打たず、スジの3sを切った。

そして――、ドラアンコのカン3sに放銃した。


金は、

○○○67m66p246s発発発 ドラ発

こういう手格好から6pをポンし、打6s。
次巡、7mを重ねて打6mのテンパイであった。

採譜のない卓だったので今説明はしにくいが、金が場況に合わせた手組みだったのだろう。

金が、最後まで決定戦進出をあきらめない、トップを目指す意識が強いことを自分が理解していれば――、
僕はカン4sのままに受けられたと思う。

1000点の仕掛けのわけは、ないのだ。

この半荘はトップから3着落ち。
この放銃で都合68pの失点である。


そうして4回戦目。
現状はまだまだ浪江が上。
5回戦は抜け番なので、自分にとっては今年最後のリーグ戦の半荘だ。

ラス親の自分は点数を重ねてダントツ。2着の木原とは約25000点差だ。

5回戦目に浪江が大きなラスを引くことに賭け、まだ少しでも多くポイントを叩く必要がある。

西家の木原が序盤に1mをアンカンした。

それから9巡目くらいか、僕の上家が場に2枚目の発を切る。
対面の木原がポン。打7m。

すぐに回った僕の手番で、ツモ4m。

78m224678p23478s ツモ4m ドラ8s東

木原のホンイツを警戒して、前巡に3mを切っていた。

木原がポン出し7mだし、カン4mはあるかもしれない。
ドラは場に出ていたので、そこまで高くはないと思った。

この4mをツモ切って、僕のリーグ戦は終了する。

4555m南南南 ポン発発発 アンカン1111m

倍満。

(注:木原プロのブロマガの牌姿は、少し違います)

ギリギリ2着には残ったが、これも都合56pの失点。

最終的に12位浪江との差は80p少々だった。



「あれがなければ――これがなければ――」
反芻すればきりがない。

僕は今期序盤から負けが多かったので、暇があれば協会事務局に行き、
打った牌譜を全て見返していた。

他人の牌譜を見て打ち筋をチェックするというプロも多いだろうが、
僕自身は自分がきちんと打てているか、その確認をする主義だ。

相手がどう打つかは相手による。
自分が自分の思考に沿ってしっかり打てているならば、それでいいと思う。
結果は水物だ。麻雀なのだから。

とはいえ――、もちろん勝ちたかった。

最高位戦で降級した二人も、皆が認める実力者だ。
彼らの思いは知る由もないが、

木原プロの言うように、

これだけは断言しても良い。
勝ちに執着しない人はこの場には絶対にいないということだ。

たった1つだけ、それだけは紛うことなき真実であり、全員の本音だと確信している。


結果に恵まれなくとも、僕たちは無論真剣に打っている。
勝つために、必死でなかった者などいないのだ。


あの日、最終5回戦前。
僕は、金と木原と、隅の方でその日の対局について話をした。

僕はもう帰るだけ。
金と木原は最終戦の開始待ち。

僕から役満を和了った金にも、倍満を和了った木原にも、恨むような気持ちは毛頭ない。

ただただ、楽しかった。

こうやって、ずっと一緒にリーグ戦をやっている仲間と、その日の麻雀の話をするのが大好きだった。


悲しいのは、来年この場にいないこと。

少しだけ、気丈に振舞って、彼らが気を遣わないようにした。


まあ・・・あの人は気なんか遣わないか。

同期入会で、
大して話もしたことないくせに、
勝手に人の気持ちを代弁して。

礼なんか言わないし。

ヒーロー。

$
0
0

僕が昔最強戦のプロ予選に出たとき。
初戦で対面に、ある団体の偉い方が座った。
上家も下家も有名プロ。
みんなテレビで見たことある人だー、と思っていた。

僕が北家スタートで東1局と東2局に満貫をツモって、結構ダントツ。
東3局に親の上家からリーチが入った。僕はなんかグチャグチャな手だったので、とりあえずオリた。まあオリるよね。
流局したらカン4筒の愚形リーチだった。それでも親だし、先手は当然打つだろう。

で次の局、12巡目まで僕はリャンシャンテン。13巡目に親の切った牌を鳴いて形式テンパイに向かった。
すると下家の西家がリーチ。これもまあオリるよね。役ないし。
そして最後の巡目、このままでは西家に海底が回ってしまう。よって僕は上家の切った安全牌をチーして海底をずらした。
流局して、西家の一人テンパイ。
僕がノーテン、と言うと対面の偉い方がびっくりした表情をする。そして西家のテンパイ形を見て、またびっくりしている。海底ツモだったようだ。

そんなこんなで南入。上家が何度か和了って、僕はまくられる。
で、オーラス。僕のラス親は、3着目の偉い方が七対子のみの1600を和了ってさっと終わる。まあ仕方ないね。

で、このときの卓がずいぶん早く終わったもので、周りはみんなまだ打っていた。
卓に座ったままでいると、対面から偉い方が話しかけてきた。

「君ね、上家の親リーチにオリただろ。あれがダメなんだよ。君は満貫2回和了ってツイてたんだ。あんな愚形リーチにオリちゃダメだ。あのときも結構いい手だったんだろ?」

僕は、

「いいえあのときはグチャグチャだったし、だいたい満貫2回ツモったなら親リーチにオリるのは普通じゃないんですか?」

と言おうと思ったけど、とりあえず「はあ」と頷いていた。

「あと、次の形式テンパイに向かうあの鳴きがいけない。君は今ツイてるんだから鳴いちゃダメだ」

僕は、

「え?もう3段目でリャンシャンテンですし、そろそろテンパイ料を狙って仕掛けるのは普通じゃないんですか?」

と言おうと思ったけどやっぱり「はあ」と頷いていた。

「ああいうくだらない鳴きをするから西家にテンパイが入ってしまうんだ。それからあの海底ずらしとかね。まあ、たまたま海底は西家の和了り牌だったけどな。だいたい君の団体の人は鳴き過ぎる。君、高レートやったことないだろ。高レートやってればああいう鳴きをしないんだけどな」

僕は、

「え、高レートをやると麻雀の内容が変わってしまうんですか。僕は競技麻雀プロだと思っていたんですけど、高レートの経験がここの麻雀に関係あるなんて思いもしませんでした」

と言おうと思ったけど・・・まあいいや。

「まあ君もね、こんな団体にいるからこういう鳴きをしてしまうんだ。うちに来ればもっとちゃんとするよ」

僕が偉い方に説教されているのを遠目で見ながら、立会人であった我らが団体代表のイガリンが、

「いやーもっと言ってやって下さい」

などと言ってたのが個人的にはたいへん笑えないギャグであった。

誤解のないように言っておきたいのだが、その偉い方は、とても面倒見のいい人なんだと思う。
僕に対しても、丁寧に麻雀について教えてあげているつもりだったんだろう。
だから僕は特に反論する気も起きなかったけれど、そこにいる若い子は大変だろうなあ、と思っていた。
こうやって上の人に言われては、鳴きたいときも鳴けなくなってしまう。

実際次の2回戦、僕の上家に当の団体の別の方が座ったのだが、なんか縮こまって鳴けなくなってしまった。本当は萬子を仕掛けてチンイツにしたかった局面で、また何か言われるんじゃないかと思ってチーの声が出なかった。

僕は気が強い人間ではない。人の顔色を伺いながら生きてきたような、どこにでもいる小市民だ。誰でも自分の好きなように自由な麻雀が打てるわけじゃないだろう。

いつかは鳴きの優位性が認められる日も来るんじゃないか、でもそれはまだまだ先かなあ・・・などと思っていた。

それからしばらくして、ある打ち手が現れた。

堀内正人さんだ。

僕は個人的にはほとんど面識がない。
でも、彼は当時としては珍しく、軽い鳴きを主体とした手数の多いスタイルの麻雀だ。
それで勝てるかどうかは分からない。鳴くことは手牌の残し方に守備と攻撃のバランスが必要で、その判断は容易ではない。基礎能力がしっかりしていないと、こういう打ち方が勝てるというわけではない。

しかし、彼は強かった。ネット麻雀でも抜群の成績を叩き出し、2010年にはビッグタイトルである第27期の十段位を獲得した。



この動画を見て欲しい。
そのとき彼は、優勝が決まりつつある局の終盤に涙していた。
彼は今までどれだけ、いわれなき批判をされてきたのだろう。
どれだけ孤独な戦いを続けてきたのだろう。
男が泣くというのは、つまりそういうことだ。
僕はもう、一発で彼のファンになってしまった。
自分の出来なかったことを、言えなかったことを、彼は麻雀で懸命に示そうとしてくれている。
僕はずっと、彼を応援していこうと思った。

それからいろいろあって、彼はいなくなってしまった。

その経緯についてはどうしようもないが、
僕の中では、僕のヒーローがもう見れなくなってしまったことが残念だった。

退会して年が明け、彼は思いもよらない姿で帰ってきた。



神速の麻雀 堀内システム51

この本について、内容については言及しないことにする。
誰もが同じように打つ必要はないし、自分にとって有効な戦術を色んな所から取り入れていけばいい。
すごい、と感嘆する打ち方もあれば、「え、こんなの本当にするの?」とびっくりするものもある。
大事なのは、この本には「堀内正人」が詰まっているということだ。

彼が何を考え、どのように戦ってきたか。
ただの戦術本ではない。
ふんだんなデータも文章も。彼が戦ってきた軌跡をくっきりと示している。

最強戦のあの場所で。

何も言えずに小さくなっていた僕が、
ずっと待っていたのは、この本だった。

構成もたいへん読みやすく、福地さんにも心から感謝したい。
皆さんに読んで欲しいです。

第13期雀竜位決定戦。

$
0
0

2月21日。

武中進という協会の選手が、今日
第13期雀竜位決定戦
の最終日に臨んでいた。

この日までのポイントは、

斎藤 俊355.1
武中 進-54.9
板倉 浩一 -143.0
渋川 難波 -158.2

と、斎藤のぶっちぎり。

武中は一番近い位置だったが、
残りたったの半荘5回で、400pの差をまくれた前例はない。

斎藤は本当に強く、センスと華のある打ち手だ。
消化試合だと、誰もが思っていた。

しかし初戦、思いもよらぬ出来事が起こる。



大きく離された武中がこの手をツモ和了らず、



必然のリーチを放った斎藤の宣言牌を出来メンツチー。



斎藤がツモ切った発を武中が鳴き、
斎藤が3索をつかんだ。

奇跡といえばそうかもしれないが、

それでも斎藤を脅かす位置につけたわけではなかった。

しかしここから、武中は丁寧に打牌を繰り返し、
徐々に斎藤との差を縮めていって、
ついに本当の奇跡を起こしてしまった。




たぶんだけど、僕を含めて、今日の決勝をちょっと違った感傷で見ていた人たちがいると思う。

昔協会に、ちょっと生意気でイケメンの後輩がいて、いつも武中とつるんでいた。

「ススムくんは不細工だな!」
「ススムくんはホント麻雀太いよな~!」

そうやって無邪気にばんばんと叩いてくる後輩を、
武中は面倒くさそうにあしらいながらも、
いつもうちの店に一緒に連れて来ていた。

彼は麻雀も強く、そう、たとえば今の斎藤のように、未来ある後輩だった。



2月25日は、彼の命日である。

その日を目前にして、今日武中は、雀竜位を勝ち取った。

優勝直後に武中からメールが来た。

「今年は、いい報告ができそうです」
と。


まあ――どうせあいつは、

「ススムはやっぱツイてんな!」

と生意気に笑って、

それでもやっぱり、嬉しそうに武中のことをばんばんと叩くだろう。


あのときのみんなでそろって、祝ってやれると良かったけれど。

彼のぶんまで、おめでとう、ススムくん。

やじーが本を出しました。

$
0
0

日本プロ麻雀協会の矢島亨、通称やじーが本を出しました。



これで勝てる麻雀攻めの常識100 (マイナビ麻雀BOOKS) 単行本(ソフトカバー) – 2015/8/25
矢島 亨 (著)


私も製作に少なからず携わったので、宣伝がてら裏話を少々。

もともとこれは、マイナビから協会に
「初中級者向けに戦術本を書いて欲しい」
という依頼があったのですが、
そのとき白羽の矢が立ったのがやじーでした。

マイナビの編集さんが、天鳳位の独歩さんから紹介されたんですよね、やじーを。

やじーと独歩さんは昔から知り合いで、まあ麻雀も強く、講師もやってるということで信頼があったようです。

やじーは、2011年から「やじ研」という麻雀の勉強会を開いています。

毎週水曜、決まった時間、決まった場所で、
なんともう丸4年もほぼ毎週欠かさずやっています。

月謝が入るわけでもありません。
ただただ、みんなが強くなるための勉強会を、後輩たちのために、
会社が終ったあとに無償でやっているのです。

やじーは麻雀も極めて論理的で、教え方も本当にうまいので、
参加者たちは皆、立派な結果を残してきています。

矢島 亨  第13回 日本オープン優勝 
水城 恵利 第11回 野口賞女性棋士部門受賞
冨本 智美 第11期 女流雀王
武中 進  第13期 雀竜位
武中 真  第10回 日本オープン優勝
斎藤 俊  第12期 雀竜位
綱川 隆晃 第 9回 オータムチャレンジカップ優勝

などなどですね・・・。

それでまあ、
「攻撃の戦術を100コ書いて!できるよね!」
というマイナビさまの依頼を、
やじーも快く承諾したわけなんですが。

ここまで信頼の厚いやじーに、編集さんも独歩さんも知らなかった欠点が、一つだけありました。


矢「須田さん、本が出来たら校正してくんないかな」

須「あーいいよー」

そんなことをやじーと約束して何週間か過ぎ、そろそろ原稿の締め切りも近づいてきたある日曜。

・・・・そういや原稿できてるのかな?

そう思ってやじーに連絡。

須「あのさー今日休みだから、多少校正にかかろうと思うんだけど」

矢「あ、じゃあどっかで会おうか、パソコン持って行く」

出来上がった原稿に目を通して、私はたいへんなことに気づいてしまいました。

須「やじー・・・もしかして、文章苦手?」

矢「うん!」

やじーの欠点は、執筆者として致命的なものだったのです!がーん。


それからは血のにじむような日々が続きました。

校正するよと言った手前、出せないレベルにするわけにはいきません。

もうこれは校正じゃなくてゴースト・・・いやいやそんなことは思いませんが。

苦手ながらも、やじーは牌姿を何百も出し、自分の伝えたいことを懸命に残しています。

(ちなみにやじーはパソコンも苦手です)

これを読者にわかりやすく形にするのが、今の自分の使命だと思いました。
他にヒマ人いないし。

やじ研の若い子にも細かい作業を手伝ってもらいました。

巻中のコラムは、やじ研のタイトルホルダーそれぞれに書いてもらいました。

青木さやさんの漫画も入れることに挑戦しました。(マイナビ本では異例)

というわけで、やじ研のみんなで作った本です。


やじーが毎週毎週4年も、金にもならん研究会を真面目にやってるから。

仕事も忙しいくせに、文章苦手なくせに、必死に原稿書いてるから。

やじーが麻雀にここまで真摯じゃなかったら、私も手伝わなかったでしょう。

というわけで、内容は私が保証します!

皆さん読んで下さいね!→予約!



来るべき日。

$
0
0

全然麻雀は関係ないけど、思ったことを。


12月23日。
今日は小学一年生の娘と映画に行く約束をしていた。

昼過ぎにマンションのエントランスに降りたところで、娘の同級生のAちゃんのお父さんに会った。

「あ、Aちゃんのパパ!」

お父さんは、箱に入った子ども用の一輪車を大事そうに抱えて帰ってきたところだった。

「ねえそれ何!?あ、一輪車!?」

「・・・!――ち、違うよ、違うよ!」

慌てて大きな箱を隠そうとするお父さんに、あ、これはしまったな、と思った。

「えーじゃあ何、何」

しつこく尋ねる娘に、普段とても落ち着いているAちゃんのお父さんがとても困っていたのが申し訳なかった。

「行こう、一輪車じゃないよ。何か、違うものじゃないかな」

娘の手を引いて、マンションを出た。

さてこれはどうしたものか。

歩きながら、私はいろいろ考えた。

間違いなくあれは、Aちゃんが明日のクリスマスイブに、サンタさんからもらうはずのプレゼントであろう。

そうすると学校で、Aちゃんが

「サンタさんから一輪車もらったんだ~」

なんて話をすれば、

うちの娘が

「あれ?Aちゃんパパが一輪車の箱持ってるの見たよ」

なんて話をするかもしれない。

いや、むしろ明日の朝に学校で、

「昨日Aちゃんのパパがね~」

なんてフライングしてしまう可能性もある。

私は悩んだ。小学一年生くらいが、サンタについてはもっとも難しい年齢なのである。

このままでは遅かれ早かれ、娘がAちゃんに今の出来事を話してしまうだろう。

Aちゃんのお父さんも、今頃まずいと思っているかもしれない。

意を決して、娘の方を向いた。

「――大事なお話があります」
「さっきあったことは、決してAちゃんに話してはいけないよ」

「えー・・・どうして」

「うん――。あれはやっぱり、Aちゃんパパが、サンタさんに頼まれて持って帰ったプレゼントかもしれない」
「でもね、そうするとサンタさんの代わりに、お父さんがAちゃんのベッドにこっそり置いてあげないといけないでしょう?
だから、パパが今持っていることは、Aちゃんには内緒にしてあげた方がいいと思わない?」

娘は少し考えたあと、わかった、とうなずいて――、

「でもね、サンタさんっていないんじゃないの、本当はパパとママなんじゃないの」

と質問してきた。

――ああ。

来るべき日が来たか、というやつだ。

内心、かなり動揺していた。

それでもなるべく子どもの夢を壊さないように、子どもの納得いくような答えを、自分なりに準備だけはしていた。

「いや――、サンタさんはいるよ」

娘の目を見てはっきり言った。

「でも、世界中にたくさんの子どもがいて、ちょっとサンタさん一人ではプレゼントを作ったり、配ったりするのが難しいことがあるんだよ」
「だからそんなときは、サンタさんの代わりに、おもちゃの会社がおもちゃを作って、おもちゃ屋さんがそれを売って、パパとママがそれを買って、というのを――、みんなでやってるんだ。サンタは世界中にたくさんいる。みんなが子どものために、分担してプレゼントを用意してるの」

娘はやはり少し考えたあと、わかった、と明るい声で言った。

じゃあうちはどうなの?とは聞いてこなかった。

なんとなく、分かっているんだと思う。


毎年毎年、子どもにそれとなく欲しいものを聞いて、
子どもの知らないうちにこっそり準備して、家のどこかに隠す。
イブの夜子どもが寝静まった頃を見計らって、そうっと枕元に置く。

この盛大な嘘を、世界中で何十年も大人たちは続けている。

世界は意外にも優しい。なんとも不思議なものだ。


うちのサンタは麻雀しか出来ないけど、これくらいは頑張ろう。
分担だからね。

ちょっと本物のサンタには3DS用意できないだろうし。


Viewing all 56 articles
Browse latest View live